人工造形的美 VS 生態還元的美 (ドイツ・ノイシュバンシュタイン城とアメリカ・シーランチ)

(「新・美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2020.6.27> 主な解説より引用)
ー今こそアートのチカラをー NO.7
    1人の王と3人の男たち。絢爛豪華な黄金の回廊と空間の魔術を演出した城「ドイツ・ノイシュバンシュタイン城」と、それとは対照的に、シンプルなデザインと構造、日本的感性をも取り入れた、木造のコンドミニアム「アメリカ・シーランチ」の物語である。


⭐️「ノイシュバンシュタイン城」( ルートヴィヒII世築城 1869-1886年)


 「愛する自分のためだけに造った城」として豪語し手がけた王の名は、ルートヴィヒII世。バイエルンの王位継承者として生まれ、1864年 18歳で即位する。 ドイツ南部・バイエルン州に建てられ、ロマンティック街道の終点にそびえ立つ「ノイシュヴァンシュタイン城」。
 一見、中世に建てられた城の遺跡のようであるが、建てられたのは19世紀。

 この王の研究家であるジャン・ルイ・シュリム氏は語る。「中世ドイツの伝説をオペラにするワーグナーを愛したルートヴィヒII世は、城を造ることで、ワーグナーの世界を表現しようとした」と。絢爛豪華な玉座の間や黄金の部屋、人工で造ってしまった洞窟の部屋など、城の内部は外見の美しい景観とはうって変わり、驚きの連続である。

 「私は自分にとっても、他人にとっても永遠の謎でありたい」としたルートヴィヒII世は、1886年政府により軟禁されてしまう。同年6月13日、王の溺死体が発見されたが、自殺なのか他殺なのか、いまだに謎のままとされる。建設は中断され、玉座は今も空のままになっている。驚くことに、彼は自分の死後にはこの城を壊すように命じていたという。


⭐️「シーランチ」( チャールズ・ムーア他 1965年完成)


 アメリカ西海岸・サンフランシスコから北へ160キロ。太平洋を臨む街シーランチは、海に突き出した断崖の上に、別荘として建てられた木造のコンドミニアムである。自然との共存の厳しさとともに、その美しさを今も伝え続けていて、自然に晒されてきた外壁が、味わいのある風合いを醸し出している。

 周囲の環境と調和しようとめざしたこの建物は、自然に溶け込んでいる情景を演出している。
 設計は、アメリカ伝説の建築家チャールズ・ムーア(1925〜1993年)。

1962年、ムーアが39歳のとき、土地開発業者より、この場所に別荘を建てる依頼を受けた。設計にあたっての条件は、「自然にも生態系にも極力手を加えないこと」であった。そんな条件下での建築のヒントとなったのは、土地に溶け込んで建ち太い柱と梁(はり)にヒントを得た、「日本の古民家」であった。
 なぜ、これほど厳しい場所に建てられ、そして一体誰が造ったのか。そこには、3人の男たちが登場する。
 第1の男は、土地開発業者のひとり・アル・ボーキーである。彼は云う。「美しい自然を生かした街をつくりたかった」と。
 第2の男は、造園家のローレンス・ハルプリンである。1年に渡りシーランチとその周辺の自然環境の調査を精力的に行った。強風、波、生態系など、やって良いことと、悪いことを、「YES NO NOTE」に書き記していき、その結論は「何もしないこと」となった。
 そして、第3の男が、チャールズ・ムーアであった。


(番組を視聴しての私の感想綴り)
 今回登場する2つの作品。「不滅の美」という共通項をめざしつつも、全く対照的な物語であった。
 「ノイシュヴァンシュタイン城」について
 私にとっての視聴後の印象が、まさに「トリッキーな建物」と言うにふさわしいと受けとめた。ヨーロッパの城への「特に外国人観光客がもちがちな期待感」故のせいもあるかとは思ったが、東京ディズニーランドの人工施設である、「シンデレラ城」を想い起こした。実際に現地で本物を観ての感想ではないので、あくまでも番組視聴の範囲ではあるが。
(ディズニー映画「眠れる森の美女」に出てくる「シンデレラ城」は、この「ノイシュバンシュタイン城」を一つのモデルにしているということは承知している)
 その美しい城の外観は、まことに優雅であり、気品に溢れ、観るものを魅了してやまないものであるだけに、その建築に至る経緯を知り、複雑な気持ちにさせられた。
 私は人工的なもの、イミテーションとしての自然環境や建物の再現であることがわかっていても、「人は感動することができる」ことを否定はしない。また、ルートヴィヒII世本人が、「自分のためだけの城」として造ったことから考えれば、後世にこの城を観光施設として利用されることを望んでいなかったとは思われる。
 その後に観光資源として、その国の政策の一環として捉えれば、必ずしも観光名所であることが問題であると言うこともなかろうとは考える。
 2015年にユネスコへ世界遺産登録の暫定候補リストに挙げられていて、本登録申請を待機していると聞くが、この手の建築物も「世界遺産」とりわけ、「遺産そのもの」とすべきかどうかは、判断が分かれるのではと推測する。
 「シーランチ・木造コンドミニアム別荘」について
 周囲に配慮した「自然との調和」とか、「自然環境の保護」とかと言うレベルを超えて、まさにこの地の自然そのもの(自然生態系)に、「還る」という表現の方が、ふさわしいと考えた。
 ただ、ノイシュバンシュタイ城ほどの「人工物」を感じさせるほどの「人工物ではない」とはいえ、日本の古民家や太い柱・梁(はり)にヒントを得ている。

 できるだけ、限りなく自然に溶け込み、「自然に還る」「自然に寄り添う」といった日本的感性が、アメリカの地ではあっても、その設計デザインと建築物に十分に反映されているのは、間違いないものと思う。
 空間の魔術師ともいわれた、チャールズ・ムーア氏が語ったこと。それは、「ひとつの場を造ることは、自分たちがどこにいるのか、更に自分たちは誰なのかを人々に知らせる、ひとつの領域を造ることなのである」と。
 「不滅の美」とはなんなのか。どこにあるのか。例えば「モナリザの微笑み」(レオナルド・ダ・ヴィンチ作) は不滅なのか。もちろん不滅であってはほしいが・・・

 真に不滅とするための人の努力もなくして、不滅な美なるものは一切ないのか・・・などと、修復アート技術やデジタルアートでの永久保存のことなどへも想いが及んだ・・・


写真 : 「新・美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2020.6.27>より転載。同視聴者センターより許諾済。
左 :  ドイツ・「ノイシュバンシュタイン城」 
右 :  アメリカ・「シーランチ」

美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

本ブログは、「美の巨人たち」(テレビ東京 毎週土曜 22:00〜22:30) 放映番組で取り上げられた作品から、視聴後に私の感想コメントを綴り、ここに掲載しているものです。 (2020年4月放映より、番組タイトル名は「新・美の巨人たち」に変更)   ブログ管理者 京都芸術大学 芸術教養学科 2018年卒 学芸員課程 2020年修了 瀬田 敏幸 (せた としゆき)

0コメント

  • 1000 / 1000