人間が主役の美術館「国立 西洋美術館-世界文化遺産登録-」(ル・コルビュジェ設計 1959年竣工)
<「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2016.8.6>解説より引用>
フランスのル・コルビュジェ(1887〜1965)は、こう語っている。
「建築とは、愛の行動であって舞台装置ではない」と。
美術館とはなにか。建築とはなにか。常に問い続けながらも、20世紀に最も世界の建築に影響を与えた建築家である。
今回、コルビュジェ設計の7か国17建築物に、世界文化遺産登録がなされた。
コルジュジェの両親のために建てられた、スイス・レマン湖の「小さな家」、近代建築の5原則を最初に体現した「サヴォワ邸」、集合住宅として「理想都市」を追求した、マルセイユの「ユニテ・ダビタシオン」、光と闇の沈黙を美的感覚から具現化した、「ロンシャン礼拝堂」、「カプマルタンの休暇小屋」などが紹介され、
そして今回の、東京・上野にある「国立西洋美術館」である。
この美術館は、当初コルビュジェからは、寸法が一切描かれていない設計図が用意された。一方で、モデュール(寸法体系)による緻密な計算と、先に紹介された「近代建築の5原則」が設計に貫かれている。①ピロティ②自由なファサード③水平な連続窓④自由な平面構成⑤屋上庭園
一見狭いと映る、幅70センチの階段設置(写真: 最下部に転載)も、「人間」を中心に考えられた美術館のこだわりから発想された故である。
<番組を視聴しての私の感想綴り>
建築そのものは、いわばハードであり、形であり、様式であり、構造という側面がある。
しかしながら、それに居住、あるいは建物を活用、行動、利用、くつろぐといった、
「人間が主役」という基本的視点や観点をポリシー(建築思考の基軸)にして、縦、横、斜め、外、内、屋上、地下と、すべての側面から検証し、それを貫いた設計なのであろうと感じた。
そして、そこにはつねに「人間への愛の行動」が込められていると。今から60年ほど前に建てられたにしても、まったくその古さを感じさせない。それどころか、時間が経つにつれ、その存在価値に光が増していくという感覚の建物。
素人眼には、単に建物の外見だけを見れば、第一印象としてはコンクリートの塊、なんら変哲のない箱物としか映らない。
内部に入り、一階からのアプローチに触れながら、はじめてこの建物の斬新性、先進性、創造性、そして「人間性」に触れるのである。
過去の建築物の歴史をみるに、その個々の時代における、文化的、歴史的、宗教的な背景や、建築思想が反映されることが多い。西洋建築としての合理性、科学性、緻密性、正確性といった建築のコンセプトが、一方の基底に貫かれているにせよ、やはり刮目すべきは、「人間の」「人間による」「人間のための」建物を主張している点ではないだろうか。
この設計コンセプトは、21世紀から22世紀にかけて主流となる先駆けではと、想いを巡らせた素晴らしい建物である。
「こんな人に優しい居心地の良い素晴らしい空間なら、ずっといたい」とも思わせてくれる空間でもある。
写真: 「国立西洋美術館」(ル・コルビュジェ設計 1959年竣工)
真ん中: 外観 上下: 館内の一部より
「美の巨人たち」テレビ東京放映番組(2016.8.6)より転載。同視聴者センターより許諾済。
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