イギリスの栄光 過去・現代・未来 ウェストミンスター宮殿・寺院


(新・美の巨人たち  テレビ東京放映番組 <2022.11.5> 主な解説より引用)
 イギリス・ロンドンの中心地「ウェストミンスター宮殿(Palace of Westminster)1860年」は、テムズ川河畔のウェストミンスター地区に建てられた建物である。

 現在は、英国議会が「議事堂」として使用しており、併設されている時計塔(ビッグ・ベン)とともに、「ロンドンを代表する景色」として挙げられる。全長約265m、1,100を超える部屋、100の階段、中庭数11と、議会政治のシンボルにふさわしい壮大なスケールを誇り、時計塔の鐘の音は、ウェストミンスターの鐘として知られている。
 もともとは13世紀に建てられた建物であるが、ヴィクトリア王朝期の1834年の火災により、木造であるウェストミンスター・ホールを除くほとんどが焼失してしまった。

 このため、これを機にイギリス政府はコンペ形式によって、新国会議事堂の設計を行うことになった。 

 設計においては、建築家チャールズ・バリー(1795-1860)と、当時は無名で20代の若手建築家であったオーガスタス・ピュージン (1812-1852)が携わった。バリーはイタリア様式の倶楽部建築により高い名声があり、古典様式とイタリア様式を好んでいた。
 一方でピュージンはキリスト教とゴシックの思考を、実際に建築に持ち込んだ人物であった。 そしてその結果、古典主義を好むバリーが基本的な平面計画、立面計画、断面計画を、ゴシック様式を好むピュージンは、詳細部分ディティールを担当した。

 ピュージンの弟子であったフェリーによると、建築様式は、「すべてギリシア様式です。古典様式に従った躯体に、チューダー様式の細部を加えました」とピュージン自身が述べたという。
 チューダーとは「テューダー様式」という中世末期からルネサンスへの過渡期に渡り、垂直様式であるゴシック建築様式を残しつつ、古典的モティーフを採用した装飾が細部になされた建築様式である。  

 宮殿の背後にあるのが、国王の戴冠式やロイヤルウェディングの舞台ともなる「ウエストミンスター寺院  11世紀」。 

 11世紀に修道院として建立され、幾度も改築を重ね、こちらは世界で有数のゴシック建築の大伽藍となっている。

 リブ・ヴォールドと言われる「構造」の採用や、「飛び梁」による建物の重さを補強する工法の採用。その結果、地上から31メートルという、イギリスで一番高い高さの、美しい天井の実現を生んでいる。


 最近では、今年(2022年)9月に、最も長く在位したエリザベス女王の国葬がこの寺院で営まれたのも、記憶に新しい。

 遡ること、1066年のウィリアム一世の戴冠式以降、ほとんどの国王の戴冠式と葬儀が、この寺院で営まれている。シェイクスピア、ニュートン、ヘンデルなど、イギリスが産んだ数々の歴史の偉人たちの墓も、ここにあり眠っている。


(番組<2022.11.5放映>を視聴しての私の主な感想綴り)


 伝統と格式を重んずる国柄が、イギリスであるように、ここに紹介されたウェストミンスター宮殿と、ウェストミンスター寺院も、建物自体とその歴史が、そのことを自ら体現していると言っていい。


 我々も世界史で学んできたように、かつては植民地支配の象徴として、世界に君臨してきた大英帝国・イギリスではあったが、1860年代以降の産業革命に始まり、今日の近代化、産業化を、世界の先頭に立って推し進めてきたのも、イギリスであった。
 日本も、イギリスをはじめ、アメリカ、フランス、ドイツなど欧米列強の国々から、富国強兵・殖産興業として、明治維新以来、様々な物の輸入から始まり、政治・経済・文化などあらゆる側面において、近代化の模範ともなってきた。

 現在は、そのイギリスから独立・開拓したアメリカをはじめ、中国、インド、さらには日本の高齢化人口とは対照的に、若年未来世代を多く抱えるアフリカ諸国が、21世紀から22世紀を睨んで、その国の成長・台頭に頭角を表そうとしている。

 イギリスそのものも、かつての栄光の時代は過ぎ去り、今日では経済問題、ブレグジット(EU離脱)問題やアイルランド紛争、気候変動・エネルギー問題、移民受入れ問題など、ヨーロッパ共通の課題とその解決に見舞われいる。イギリス政治史上初めて、両親をアジア系(インド)出身にもつ、イギリスサウサンプトン生まれの首相として、2022年10月にリシ・スナク氏が就任したのも、ある意味での象徴的な出来事と言えるかもしれない。

 スーナク氏は初めて、与党党首としてバッキンガム宮殿で、国王チャールズ3世より組閣の要請を受け首相として就任した。彼は、過去200年以上で最も若いイギリス首相であり、インド系イギリス人のヒンドゥ教徒。イギリス初の南アジア系首相となった。
 下院初当選から7年での首相就任は、現代イギリスで最速期間での達成である。

 話が感想とはだいぶ逸れたようにも思えるが、イギリスの過去の栄光や歴史云々よりも、現在そして未来に向けたイギリスの舵取りの重責について、本当に重たいものがあるとの想いに行きついたが故である。
 激動の時代に直面しているのは、イギリスだけではない。日本をはじめ、アメリカ、中国、インド、アフリカ、中南米と、どこをとっても待ったなしの地球環境汚染問題をはじめ、待ったなしの局面に、誰もがどの国もが立たされているという危機感は、リスクシェアせざるを得ない。
 ロシア・ウクライナでの紛争解決に、国連が不全に陥っているのも、現代世界政治を象徴していると言っていい。


 「温故知新」という言葉を今一度噛みしめつつ、新しい時代に立ち向かう勇気と正義こそが、国籍の違いや立場、置かれている様々な環境の違いはあるが、世界の民一人ひとりに求められているのではないか・・・
 「イギリスの栄光」とこれからもいうのなら、過去の栄光にしがみつかずに、このことを忘れずに前へ進めてほしい。


写真:  ウエストミンスター宮殿 (全景)  
     ウエストミンスター寺院 (正面)
     テレビ東京放映<2022.11.5>

          同視聴者センターより転載を許諾済。

ウエストミンスター宮殿 (全景 美しい夜景ライトアップ)  

ウエストミンスター寺院 (正面)

美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

本ブログは、「美の巨人たち」(テレビ東京 毎週土曜 22:00〜22:30) 放映番組で取り上げられた作品から、視聴後に私の感想コメントを綴り、ここに掲載しているものです。 (2020年4月放映より、番組タイトル名は「新・美の巨人たち」に変更)   ブログ管理者 京都芸術大学 芸術教養学科 2018年卒 学芸員課程 2020年修了 瀬田 敏幸 (せた としゆき)

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