「東京スカイツリー」はなぜ美しいのか

(「新・美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2022.9.10放映>より主な解説を引用)

  2008年7月に着工し、2012年2月に完成・竣工した、東京の新しいランドマークタワー「東京スカイツリー」は、今年(2022年)で開業10周年を迎えた。
 この間に訪れた観光客は、約4,000万人となり、東京の風景の一部となった。
この建物は、以下の3点から特に特徴的な存在となっている。

①「タワー断面の思いもよらない変化」
 タワーの足元の断面は、「正三角形」であり、高くなるほど「丸みを帯びた三角形」に変化し、高さ320メートルで「円形」となる。
 これは、寺社の柱などに見られる「起り」(むくり)や、日本刀の緩やかな「反り」(そり)の曲線を生かした、「日本の伝統建築の発想」を駆使し、「反りの美的要素」をも盛り込まれたもの。このため、タワーを見る方角によっては傾いているようにも、裾(すそ)が非対称になっているようにも見える。

②「粋・幟・雅な演出による夜間ライティング色」

 この建物の美しさは、夜間におけるライティング照明にある。それは、まるで江戸の文化を色で演出しているようにも見える。
 それは、水色で表現された「粋」<いき>」であり、情熱的な橙色で表現された「幟<のぼり>」であり、紫で表現された「雅<みやび>」の3色に象徴される。それらの色は、まるで流線型を身に纏っているかのような、美しいストリーミングとして建物全体に映える。

2020年の東京オリンピック開催(実際には2021年へ延期)を契機として、

「粋」: 隅田川の流れを彷彿とさせるような、水の豊かな瑞々しい流れを表現に追加された。
「雅」:羽衣の優美な動きをイメージに加え、らせん状に上昇する緩かな動きが追加された。
③「隠れコンセプトは富士山」
「粋」:泡の揺らぎや煌めきをイメージした「水泡」の緩やかな動きが追加された。
「幟」:幟の旗がそよ風にはためくような、ゆっくりとした動きが追加された。

 かつての葛飾北斎が、「富嶽三十六景」を描く中で、様々に変化する富士山を描いたように、東京スカイツリーも、「令和のスカイツリー三十六景」とも呼ばれるように、都内の至る所からこのスカイツリーが変幻自在に姿を変えるが如く、東京の景色の一部に溶け込んでいる。

それは、まるで「隠れコンセプトとしての富士山」のアイデンティティを、このツリーが体現しているかのようである。


「番組を視聴しての私の感想綴り」

主に以下の3点を、感想としてあげてみた。
① 「破調の美」
 よくよく目を凝らして観る。観る立ち位置というか、観る角度を変えて眺めて観るに、たしかにその「非対称」であることに驚く。このことは、かつての高度成長時代の東京の「昭和のシンボル」でもあった東京タワーの美しさと比較しても、建物の「美」をいわばパーフェクトな形で設計し描き、形にするのか。むしろあえて、その対称と言える美しさを取り壊し、「非対称としての美」を追求し形にしていったとも思えるのである。
 以前に兵庫県の「姫路城」を取り上げた本番組の中で、「破調の美学」というものを知った。
 「破調」とは、文字通り調子を破ることである。一般的に美しいものは、本来そこに何らかの「調和」がある。そこへ来て「破調の美」こそが、日本人の自然観から生ずる最も優れた感性の一つとすれば、この東京スカイツリーにも、そうした「美学」が流れているのではと感じた。


②  「LEDによるライティングストリーミングの究極美色  ブルーバイオレット」
 まるで、隅田川の水の流れを想像させる夜間照明のライティングストリーミング演出の見事さに、見惚れてしまうほどの美しさを体感してしまう。
 そして、それは単なるカラー・色の演出に留まらず、「江戸の美学」ともいうべき、歴史的なストーリー(物語)を演出しているかのようなカラーリングと、その変幻自在な色彩変化に圧倒されてしまう。
 これまで、このブログでも記述してきたように、本来は「ラビスラズリ」のような「青」「群青色」「深い海を連想させるような青・ブルー」を好みにしている私である。

 ここへ来て、東京スカイツリーにおける「優れた色合い」は何かと問われれば、「青」よりも「江戸紫」(ブルーバイオレット)色に、吸い込まれるような美しさを見出している自分を発見する。
 紫色は、赤と青によって構成される間色であるが、小豆色に近い赤紫から、青みの勝った藍紫(ブルー・バイオレット)まで、種々の色相が現れる。
 歌舞伎の「助六由緑江戸桜」の助六の用いる鉢巻の色が、これにあたるとされる。やはり、江戸情緒ともいうべき、色合いを重ねて観ると、自ずから「スカイツリーの美」を奏でる色が、これであると合点するのである。


③  「隠れコンセプト」に観る北斎と「富士山の美」
 富士山を演出する「隠れコンセプト」があることは、この番組を視聴して初めて知ったことである。ことの例えとして、葛飾北斎の「富嶽三十六景」ならぬ、「令和の東京スカイツリー三十六景」として例えたことは、言い得て妙であると感じた。
 つまりは、東京都内、ないしは東京近郊から観ても、至る所からこの「東京スカイツリー」が、風景のワンシーンとして取り込まれるのである。
 このように、「江戸」「東京」といったコンセプトを、ツリーそのものが体現していると言ってもいいほどに、「東京の風景に馴染んでいる存在」が、この塔であり建物である。

 つぶさに目を凝らすとみえてくる、「そり」や「むくり」といった形状に表現される、「伝統の今日化」。それこそは、東京のアイデンティティとしての象徴と誇りではないか。
 最も、かつての東京タワーも長い間東京のシンボルとして君臨してきた。
 ただ、これから先の「東京」・「TOKYO」を担うのは今の十代、二十代、三十代の若者たちである。
 東京スカイツリーの「10年後」、「20年後」、「50年後」を勝手に夢観つつ、それらを担うのは、間違いなく彼らであろう。であるならば、このツリーを東京の「過去のレガシー」ではなく、「未来から来た宇宙船」とすべく、運命共同体として夢膨らむ舞台にしていってほしい。

 そこには、無邪気な夢想の世界の存在だけで終わって欲しくない、との願望も潜んでいる。「未来」に向けて屹立して建つ東京のシンボル、ランドマークとして、より一層魅力あふれるツリーの存在になっていってほしい・・


写真: 「新・美の巨人たち」テレビ東京・番組で放映のあったシーンより転載。同視聴者センターより許諾済。

東京スカイツリー 全景

東京スカイツリー コンセプトカラー「粋」いき

東京スカイツリー コンセプトカラー「幟」のぼり

東京スカイツリー コンセプトカラー「雅」みやび

美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

本ブログは、「美の巨人たち」(テレビ東京 毎週土曜 22:00〜22:30) 放映番組で取り上げられた作品から、視聴後に私の感想コメントを綴り、ここに掲載しているものです。 (2020年4月放映より、番組タイトル名は「新・美の巨人たち」に変更)   ブログ管理者 京都芸術大学 芸術教養学科 2018年卒 学芸員課程 2020年修了 瀬田 敏幸 (せた としゆき)

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