芸術の街・金沢が織りなす「美の風景」(風景の国宝)

「新・美の巨人たち」(テレビ東京放映<2022..716>番組より主な解説を引用)


 歴史と伝統に息づく景色、およそ400年前の「加賀百万石の城下町」を歩けば、あちこちに「美のセンス」が散りばめられている。北陸・金沢は、その栄華を今に伝えている街である。

 「金沢は、京都とは違う独特の世界観を持っている。日本の伝統文化をすごく大事にしている街の印象がある」と語るのは、今回のアートトラベラー 黒谷友香さん。
 2010年、金沢は国指定の重要文化的景観である、「風景の国宝」に指定された。金沢城や兼六園周辺、主計(かずえ)町茶屋街、長町武家屋敷跡などが、その指定エリアにあたる。
 加賀百万石の祖と云われる前田利家(1538-1599)は、「穴太衆(あのうしゅう)」と呼ばれた城壁造りのプロ集団を金沢に呼び寄せ、威厳溢れる城壁を造らせた。
 そのセンスを引き継いだ5代藩主 前田綱紀(1643-1724)は、赤戸室、青戸室といった色の違う石垣を組み合わせ、まさに「魅せる石垣」として完成させた。

 広さ3万坪の巨大な庭園「兼六園」(石川県・金沢市)は、「後楽園」(岡山県・岡山市)、「偕楽園」(茨城県・水戸市)と並んで、「日本三名園」に数えられる。何代もの加賀藩主により長い年月をかけて形作られてきた名園であるが、作庭における基本的な思想は一貫して、「神仙思想」。大きな池を造り大海に見立て、その中に不老不死の神仙人が住むと言われる島を配置。藩主たちは、長寿と永劫の繁栄を、庭園に投影した。
 この庭園内に、13代前田斉泰(1811-1884)が母のための建て、藩主の美的センスが炸裂した隠居所「成巽閣(せいそんかく)」<重要文化財>がある。
 「群青の間」には、天井に当時でも金と同じくらい高額の顔料とされたマリンブルーの色合いを、いち早く買い付け採用した。それは、美の追求のためには金を厭わない、武家が好んだ「美を継ぐ街づくりの象徴」ともいえる。
 染め物、着物に目を向けると、京都で生まれた「友禅」は、江戸時代に金沢で独特の変化を遂げた、「加賀友禅」の美が生み出される。

 もう一つの工芸「金箔(きんぱく)」は、職人技が育んだ美であり、その金箔は1万分の一ミリという精巧さで産み出され、金閣寺や日光東照宮の陽明門などでも使われている。

 これだけの腕のいい職人たちを全国から呼び寄せ、数々の工芸品を造りあげていったのは、単なる平和志向、芸術愛好志向ではなく、「戦争のための武具準備や、いざというときには、いつでも藩の防衛につなげられる」そうした策略が裏にはあり、徳川家に対しての撹乱作戦とでもいうような、意味合いも兼ね備えていたという。

 高い技術を持った職人たちの不足という金沢の危機意識もあってか、1996年に、「金沢職人大学校」が無料で全国に門戸を開き開校した。

アートトラベラー 黒谷友香さんは、番組の最後に語った。「金沢は、美意識の高さが凄いなと感じた。その美意識を、次世代にまで引き継いで大事にしていってほしい」と。


(番組を視聴しての私の感想綴り)


 「美意識の高さ」が、金沢の街と職人たちの隅々にまで息づいている。
今回の視聴を通じての第一印象である。
 全てが素晴らしいと感じたが、特に印象に残ったのは以下の3点である。


街並みと「兼六園」に見る「品のある優雅さ」、「心落ち着く情緒的なウェット感」

 歴代の藩主たちが引き継いできた、金沢ならではの「美意識の堅持と、飽くなき追求」が、今日まで街並みにも、工芸品や職人たちの心意気にも引き継がれてきているからこその、「風景の国宝」選定の理由であったに違いない。

 ハード面での景観や景色、城壁の石垣、街並み、そしてソフト面での人々の街への想い、心意気、職人たちの美意識に対する健全なプライド(輝く誇り)とが相まっての「風景の国宝」たる所以かと感じた。

 武家の街を意識的に感じ、藩主のセンスが光るのは、「石垣の設計とデザイン、そして実行」であった。


先端をいく群青色の使用、フェルメールや伊藤若冲、東山魁夷を彷彿とさせる「ウルトラマリンブルー」への着目と大胆な導入

 これまでも、何回となくこのマイブログの中で記載してきているが、ウルトラマリンブルーの色合い自体の好みという理由もあるが、ここまで大胆に「群青の間」に取り入れ実践した例を知らなかっただけに、とても印象的であった。

 加賀百万石を誇り、徳川家に対しての加賀・前田家の矜恃としても、負けまいとする加賀藩の武士としての意地のようなものが垣間見える。それにしても、狩野派が京都で描いた質実剛健でありながら、虎や獅子で象徴的に描いたように、権威的な品数の多さで圧倒されれば、ひとたまりもないもののように受け止めた。

 ウルトラマリンブルーは、戦争か平和かと問われれば、やはり「平和志向」カラーであろうと感じた。


「金箔」の豪華さというよりも、「加賀友禅」に見られる「気品と上品と 

     独特の優雅さと色合いの現代的なセンス」

 加賀友禅については、全くの素人ではあるが、その色合いというか、鏑木清方を彷彿とさせるような、パステルカラー的な色合い、色調にひかれた。
 それとともに、花々のデザインに見られるように、現代的なデザインセンスを先取りした「都会的デザインセンス」「洗練されたデザインセンス」「研ぎ澄まされたデザインセンス」を垣間見たような世界というか、その金沢チックな世界観に引き寄せられた。
 海外のデザイナーたちとかは、これらのデザインと色調をどのように受け止めたのか、とても興味がわいた。


 また一方で、京都の円山応挙や、伊藤若冲、最近であれば東山魁夷など、日本画の巨匠が、加賀友禅のデザインと出逢ったら、果たしてどのような化学反応が生まれるのであろうか、勝手な想像力が働いた。
 「金箔」について補足すると、例えば京都の「金閣寺」に使われている「金箔」や、日光東照宮の陽明門に使われている「金箔」など、いずれも素晴らしい輝きと荘厳さを感じざるを得ない。

    一方で、バブルが儚い夢と幻と化したことを体験した世代としては、「金箔」は眩しすぎるというか、苦手意識がある。それでも、趣味のDJで採用している名刺のデザインは、実はゴールドではある。

 オリンピックにおいても、第一位には「金メダル」「ゴールドメダル」が、勝利と栄光の印として、今でも用いられている。金の延べ棒、金の腕時計、金のネックレス、金の彫像などなど、金に憧れるのは、人間の性であるかもしれない。
 持続可能な世界、環境問題とまったなしの時代に生きていく平成、令和世代にあっては、時代の色や色調の色合いといったものを、何に求めていくのか、これもまた興味深い。


(写真: 「新・美の巨人たち」<テレビ東京2022.7.16放映>より転載。同視聴者センターより許諾済) 

「兼六園」  日本名園のひとつ <石川県・金沢市>

「成巽閣(せいそんかく)」(兼六園内)

「群青の間」 天井に使われたウルトラマリンブルー色調


今日に引き継がれている「加賀友禅」の着物デザイン紹介例

美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

本ブログは、「美の巨人たち」(テレビ東京 毎週土曜 22:00〜22:30) 放映番組で取り上げられた作品から、視聴後に私の感想コメントを綴り、ここに掲載しているものです。 (2020年4月放映より、番組タイトル名は「新・美の巨人たち」に変更)   ブログ管理者 京都芸術大学 芸術教養学科 2018年卒 学芸員課程 2020年修了 瀬田 敏幸 (せた としゆき)

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