自然が生んだ美的景観「天橋立」(京都府宮津市)

「新・美の巨人たち」<テレビ東京放映 2022.5.21>主な解説より引用


 天橋立(あまのはしだて)は、京都府宮津市の宮津湾と内海の阿蘇海の間に横たわる全長3.6キロメートルに及ぶ「砂州」(さす)である。

 宮城の松島、広島の宮島と並んで、「日本三景」の一つで、2014年〜2015年にかけて、国指定の「重要文化的景観」の一つに選ばれた。「日本の渚100選」にも選ばれ、約5000本の松と、白い砂浜が生みだすコントラストとしての「白砂青松」は、絶景中の絶景ともいわれている。

 全体が外洋に面さない湾内の砂州としては日本で唯一のものであり、ここの松は、人の手により植林されたものではなく、大部分が自然発生的に生えられたものである。

 そして、室町時代に、風景の写生としてこの景観を描いた水墨画が、国宝「天橋立図」(雪舟等楊(せっしゅう とうよう 1420ー1506年・作 室町時代<1501〜1506年> 京都国立博物/蔵)である。

 しかしながら、この絵は「下絵」であるとされているため、スケッチの絵はラフに描かれているが、それ以上に驚きなのが、鳥瞰図として俯瞰して描いた視点の位置である。

 現代のドローンもない時代にあって、実に細やかに頭の中の「想像図」として描かれたとしか思えない、雪舟の想像力の豊かさと風景全体をキャッチした写実の的確さに驚かされる。

 この風光明媚な景観も、江戸時代の終わりにも洪水が発生し砂州が裁断された経緯があり、さらに1975年には海岸線の砂浜がなくなる危機にも襲われたが、1979年から天橋立サンドバイパス事業として、かつての景観を取り戻すべく始動している。

 2000年前から続く「神秘の景観」を守り育てることの大切さを引き継ごうと、「クリーン橋立一人一坪作戦」と銘打って、地元のボランティア約1300人の人々が、定期的に清掃作業に取り組んでいる。その姿は、人々の志の美しさと景観の美しさが重なり合い、物心ともに心洗われる「美」と映るのである。


「番組を視聴しての私の感想綴り」

 「日本の美的景観」を追い求める番組シリーズの一環として、「天橋立」が取り上げられた。コロナ禍の最中ではあったが、実は学生時代の旧友とともに、放映前の2021年11月に「天橋立」を訪れていた。

 城崎温泉、有馬温泉と関西の天然温泉を巡る旅の途中ではあったが、その美しい景観が今でも目に焼きついて離れない。
 傘松公園という展望台まで、1人乗りのリフトで各自が登っていき、晴天の天気も手伝ってか、ため息の出る風景に釘付けになった瞬間が忘れられない。

 さて、番組の中では雪舟等楊 作・国宝「天橋立図」(紙本墨画淡彩/室町時代)が登場した。落款も印章もないため雪舟の真筆かどうか定かでなかったらしいが、大正時代頃には雪舟最高傑作の一つとされ、1934(昭和9)年に国宝に指定されたという経緯がある。

 それでも、描いた場所、視点、依頼主は誰か、画中の書き込みなど、今でも謎の多い絵といわれている。

 雪舟(1420ー1506年)が80歳を越してなお現地に足を運んで、実景を写したことは驚異である。中国大陸に渡って大自然を写生し、宋元画を学び、禅画一致を求めて一生描きつづけた雪舟の傑作。広大な空間を感じさせる、開放感たっぷりの構成である。
 
筆遣いはいたって荒々しく、まさに一気呵成に仕上げた感があるが、かえってそれが図に独特の躍動感、力強さをもたらしている。


 天橋立が「日本三景」の一つというのは、切手シリーズにもあり、幼少期からその存在は知っていたが、私自身が実際に訪れたのは、宮城の松島、京都の天橋立の二つであり、広島の宮島にはまだ行っていない。

 松島を訪れたのは、2011年津波の被害で当時大変な被害を被っていた東北地方の、岩沼市、亘理町、東松島市を、災害支援として駆けつけた際であった。

 たまたま出会った松島の月夜に浮かぶ一風景が、いまだに瞼に焼きついて離れない。朝から晩まで走り回りながらの執務の合間に、たまたまその風景に偶然に遭遇したと言っていい。
 「一幅の名画」と言えるなら、天橋立も(こちらは観光ではあったが)同様の感激が走ったことと、今回の番組視聴が図らずも、「美的景観のリフレイン」の機会となったことは間違いない・・・


写真: 「新・美の巨人たち<2022.5.21放映> 」より一部転載。テレビ東京視聴者センターより許諾済。

「天橋立」景観写真

国宝「天橋立図」(雪舟等楊・せっしゅう とうよう作

 1420ー1506年 室町時代<1501〜1506年> 京都国立博物館/蔵)

天橋立 傘松公園・展望台より (2021年11月筆者撮影)

美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

本ブログは、「美の巨人たち」(テレビ東京 毎週土曜 22:00〜22:30) 放映番組で取り上げられた作品から、視聴後に私の感想コメントを綴り、ここに掲載しているものです。 (2020年4月放映より、番組タイトル名は「新・美の巨人たち」に変更)   ブログ管理者 京都芸術大学 芸術教養学科 2018年卒 学芸員課程 2020年修了 瀬田 敏幸 (せた としゆき)

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