時代を越えて心に響く ー西洋美術から3作品を紹介ー


(「新・美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2020.5.16> 主な解説より引用)

「今こそアートのチカラを  ー時代を越えて心に響く西洋美術ー」


 本番組が20年間に1000近くの美術作品を紹介してきた中で、西洋美術の世界から、視聴者の皆さんの心に響いた作品を紹介するシリーズ。

 紹介されたのは、以下の3作品(①〜③)。

①「ピエタ」(ミケランジェロ・ヴォナローティ作 1498〜99年 聖サンピエトロ大聖堂:所蔵)
 「奇跡の彫刻」とも呼ばれている。聖母マリアが息絶えたキリストを抱いている。
 大理石で彫ったにもかかわらず、肌の繊細な温もりまでもが伝わってきそうな出来栄え。国・宗教・思想も超えて、誰も祈りを捧げたくなる静かな美しさ。なぜこれほどまで心を動かされてしまうのか。
 トリノ・アルベルティーナ造形大学教授のルチアノ・マッサーリ氏は、二つの特徴を語る。一つには、細部の表現の緻密かつ写実的な迫力であり、そのディテールが、作品に劇的な凄みを与えている点。二つめには、ダ・ヴィンチも採用していた「三角構図」を用いて、画面に安定感・安心感を与え、それが「慈しみ・安らぎ」の感情を醸し出している点。


②「民衆を導く自由の女神」(ウジェーヌ・ドラクロア作 1830年 ルーヴル美術館:所蔵)
 革命の熱気、逞しさと力強さが、画面の迫力から見事に伝わってくる絵画であり、「絵画の革命」とされた作品。

 美術史家のドミニク・デメ氏は語る。「中央に描かれている胸を肌けた女神は、母なる大地、すなわち祖国を象徴している。祖国のために戦い、自由を勝ち取ろうと、ドラクロアはこの絵を通じて民衆に呼びかけている」と。
 当時のパリ市民からは絶賛の声があがったが、一方で、当時のフランス画壇を率いる美術界からは、激しい批判が浴びせられた。
 この作品を描いたドラクロアはロマン派の画家であり、主流派のドミニク・アングル率いる新古典主義とは、真っ向から対立した。主流派では、・写実的で滑らかなタッチ ・デッサンが正確 ・同系色を並ばせるといった点がポイントであった。
 しかし、正確な写実よりも、自分の感情やフォルム、色彩表現を大事にしていたドラクロアの信念と主張は、アングルもやがて認めざるを得ず、1857年フランス・アカデミー会員に当選した。


③「睡蓮」の連作 (クロード・モネ作 1920-1926年 オランジェリー美術館: 所蔵 )
 印象派の生みの親、モネ晩年の集大成作品が、「オランジェリー美術館」(パリ)に収蔵されている。空間の広がりなどを意識したその技法は、「現代で言う空間装飾(インスタレーション= 場所や空間を作品として体感させる手法)につながる」と、三菱一号館美術館学芸員の安井裕雄氏は語る。モネは、体験型の空間の演出に、当時の時代から意識して描いていた。


(番組を視聴しての私からの主な感想コメント)

 新型コロナ禍の中という影響もあり、過去にも取り上げられた作品の再放送の作品であるため、一度はこのブログにも掲載している作品もあります。

① 「ピエタ」
 24歳で「ピエタ」を、36歳で「システィーナ礼拝堂の天井画」を、60歳で「最後の審判」を、そして、88歳で「ロンダニーニのピエタ」を、失明の中であっても、死の直前までも彫り続けた、まさに天才彫刻家である。
絵画でさえ、「彫る」ように描いた。浮き彫りのように、人物を描くことができたのである。ピエタとは、「慈悲」などの意味であり、ミケランジェロは、ピエタを題材として制作したのは、4体あるが、完成させたのは、「サン・ピエトロのピエタ」のみである。
 「サン・ピエトロのピエタ」は、他の芸術家によっても同じ題材で数多く作られたピエタと比較しても、肩を並べるもののない傑作である。
   この作品によって、ミケランジェロの名声は確立されたといっていい。
(2017.5放映分と同じ作品紹介のため、 コメント掲載は同文としました)


②  「民衆を導く自由の女神」
 古い体質である画壇の主張(主流派)を覆し、勇気を持ってその信念を貫くドラクロアの画家としての、人としての生き方に感銘した。
 新古典派のドミニク・アングルの作品も、以前に本番組で紹介されコメントを残している。(裸体美にこだわり続けたドミニクが、70代に入ってから描いた作品「泉」があったのを想起した そこでは、神話にある女性美ではなく生きた女性の美として描いたとしたが、短文で終わっている)


③  「睡蓮」の連作
 モネ、シスレー、モリゾ、ピサロらは、一貫して自由気まま、日光、色彩のアートを追求し、「最も純粋な」印象派と評価された。
 印象派絵画の大きな特徴は、光の動き、変化の質感を、いかに絵画で表現するかに重きを置いている点である。
 インスタレーションは、現代美術(コンテンポラリーアート)において、よく目にする言葉であるが、モネの時代から、それを先取りせんとするような、豊かな着想と絵画表現が生まれていたというのは、素晴らしいことと感じた。


写真: 上から
「ピエタ」(サン・ピエトロ大聖堂: 所蔵)
「民衆を導く自由の女神」(ルーヴル美術館: 所蔵)
「睡蓮」の連作(オランジェリー美術館: 所蔵)
「美の巨人たち」テレビ東京放映番組(2020.5.16)より引用・転載。同番組視聴者センターより許諾済

美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

本ブログは、「美の巨人たち」(テレビ東京 毎週土曜 22:00〜22:30) 放映番組で取り上げられた作品から、視聴後に私の感想コメントを綴り、ここに掲載しているものです。 (2020年4月放映より、番組タイトル名は「新・美の巨人たち」に変更)   ブログ管理者 京都芸術大学 芸術教養学科 2018年卒 学芸員課程 2020年修了 瀬田 敏幸 (せた としゆき)

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