芸術の都パリに咲く 街中の斬新な作品「パリ・メトロ出入口」(エクトール・ギマール作 1900年)

(「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2019.2.23>主な解説より引用)

 不思議な造形の新芸術。それは、かつての最盛期には、パリ市内の166か所に見られた地下鉄の出入口にあるモニュメントである。パリの地下鉄は、1900年に開かれたパリ万博の際に開通した。

 アール・ヌーヴォー(Art nouveau)は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパを中心に開花した、国際的な美術運動であった。「新しい芸術」を意味し、花や植物などの有機的なモチーフや、自由曲線の組み合わせによる、従来の様式に囚われない装飾性が特徴である。鉄やガラスといった、当時の新素材の利用などにより、建築、工芸品、グラフィックデザインなど、様々な分野で花開き、その装飾性は多岐にわたった。

 パリ市内の大改造は、1853年から始まった。エクトール・ギマール(Hector Guimard 1867-1942年)は、景観美に代表されるパリ市内の主要な道路や建築物に対して、多くの不満を感じていた。そこで、ベルギー・ブリュッセルに渡り、アール・ヌーヴォー建築の先駆者ヴィクトール・オルタから、数々のヒントを得た。ギマールによる地下鉄出入口は、その後駅の統合などがすすむにつれて、数が減り、今では88か所と、最盛期(166か所)の約半分の数となった。

 産業革命をきっかけとして流通した、安易、安価、大量生産、機械といった流れに対して、手仕事による、自由で繊細、個性の美といったものに、新たな価値を見出そうとしたのが、アール・ヌーヴォー(新しい芸術)であった。

 地下鉄開通の歴史は、1863年のイギリスを皮切りに、1875年イスタンブール、1896年ブタペストとウィーンへと広がり、その後パリへとつながる。地下鉄の出入口モニュメントのデザインは、ギマールに任されたものの、工期がわずかに6か月という超短期間であった。そこで、ギマールは悩みながらも考えた。

 「アール・ヌーヴォー」は単に「手仕事の美」を指すわけではない。早く、安く、大量につくれるものを加工し組み立て式にして、それらを世に送り出す、「プレハブ工法」ならぬ、彼独特のいわば、「アール・ヌーヴォー工法」を考案した。

 その後、1964年を契機に、当時のフランス・文化大臣であったアンドレ・マルローは、フランスの歴史的建造物のひとつとして、ギマールの地下鉄メトロ(出入口)の保存を決定した。自然美の曲線として、生命の得たように、鉄の自由なうねりの美は、その後シカゴ、モスクワ、モントリオール、メキシコシティ、リスボンと5つの都市へ広がり取り入れられていった。

(番組を視聴しての私の感想綴り)

 日本の首都・東京は、2020年2度目のオリンピック・パラリンピックの開催地となり、早いもので、あと1年半(約500日)余りとなっている。

 1964年の前回の東京オリンピックに間に合わせるように取りかかったのが、いまの首都高速道路網であり、東海道新幹線などである。世間は高度成長期、右肩上がりで経済も成長しつづけ、今日の日本の繁栄の基礎ともなった。

 反面、その一途な成長神話があだとなり、公害・環境汚染問題など、負の側面も瞬く間に膨張をつづけ、絶頂期のバブル崩壊、地方と都市部との格差、大規模な自然災害による成長神話の崩壊、失われた20年へとつらなる。

 「平成」という30年間が、後世にどのような歴史的評価がくだされるのか、一側面だけでは測りきれないものではある。元号も改まり、あと1か月で新元号が発表される。

 高齢化の加速、少子化による生産年齢人口、総人口の減少による縮小社会(いままでが膨張だとすれば平常化とも)は、一時期免れないだけに、AI(人工知能)や、新たな自然代替エネルギーへの転換などによる、社会全体の向かおうとする未来像が、必ずしも鮮明であるとはいえない。

 そんな時代の真っ只中にあって、今回のアール・ヌーヴォー(新しい芸術)の挑戦が、むしろより新鮮なものに映ってくるのはなぜだろうか。

 逡巡している暇はない。2020年後のレガシー(遺産)を、どのような形で好循環なものとして、後世の未来世代へ残していけるのか。先の話ではなく、まさに’’いま’’の街再生と創造こそが問われているといえないか・・・

 そして、大事な点は、東京固有の都市景観といった課題解決に留めるような、狭い視野であってはいけないということ。地方、全国、いな東アジア、世界は確実にその距離(地理的・情報交流的に)を縮めてきている。

 「衣食足りて礼節を知る」というが、これからの礼節は、衣食の再考とともにある時代なのだと思う。われわれは、真に豊かになっているのか、芸術の歴史からも、もっともっと謙虚に学ぶものに満ち溢れてはいないか。

写真: 「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2019.2.23>より転載。同視聴者センターより許諾済。

美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

本ブログは、「美の巨人たち」(テレビ東京 毎週土曜 22:00〜22:30) 放映番組で取り上げられた作品から、視聴後に私の感想コメントを綴り、ここに掲載しているものです。 (2020年4月放映より、番組タイトル名は「新・美の巨人たち」に変更)   ブログ管理者 京都芸術大学 芸術教養学科 2018年卒 学芸員課程 2020年修了 瀬田 敏幸 (せた としゆき)

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