未完の彫刻作品・・「ロンダニーニのピエタ」(ミケランジェロ・ブオナローティ作 1559-64年 )

(「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2018.9.22>解説より引用)

神のごとき芸術家・ミケランジェロ(1475-1564年)が、人生の最後に手がけた未完の彫刻作品「ロンダニーニのピエタ」(1559-64年 イタリア・スフォルツェスコ城美術館所蔵)である。

 ミケランジェロが晩年88歳の時で、自らの死を迎える6日前まで、ノミをふるった未完の作品。彫られたのは、細く痩せこけた死せるキリストと、背後からその体を優しく抱きかかえる聖母マリアの姿。まるで、二つが一つに溶け合っているかのよう。

 荒々しいミノの跡は、未完の証。多くのピエタの姿は、サン・ピエトロ大聖堂の「ピエタ」(1499年 ミケランジェロ24歳の時に、全身全霊を込めて造った作品)に代表されるように、マリアの膝の上にキリストが抱きかかえられている姿が、ほとんどである。

 力のない女性に、あえて男性を抱えさせたのは、聖母の強さやたくましさを表現するためであった。そのインスピレーションは、1535年ミケランジェロが、生涯で唯一交際し、当時名の知れた女流詩人であった、ヴィットリア・コロンナ(1492-1547年)から得た。

 彼女の死後に、84歳から本作品を掘りはじめたミケランジェロは、天才ゆえの孤独の中での作業となった。自身の体の衰えをキリストに反映し、自らの死が愛に包まれるようであってほしいという願いが、この作品には込められていると思われる。

(番組を視聴しての私の感想綴り)

 ピエタ(Pietà)とは、哀れみ・慈悲などの意味である。

 一般には、聖母子像のうち、死んだキリストを抱く、聖母マリアの彫刻や絵のことをさす。 これまでにも多くの芸術家が、ピエタを製作している。中でも、ミケランジェロが1499年に完成させた、サン・ピエトロ大聖堂(バチカン市国)にある「ピエタ」が、特に有名であり、以前「美の巨人たち」でも取り上げられ、感想も綴った記憶がある。

 どんな天才であったとしても、人間が背負うことになる「生老病死」という宿命は、誰人も免れない現実である。天涯孤独を通したミケランジェロではあったが、最後はやはり、傍にいたであろうヴィットリアという女性から、身近にある愛を求めたのではないか。

 その強さは、聖母の強さ、逞しさと重ねられていったに違いない。救いを求めていくという救済思想では、どうしても悲壮感が漂う結末をイメージしてしまうのであるが、母性愛への本能的な欲求は、哺乳類でもある人間の持ち合わせている性(さが)であろうか。

 ミケランジェロが24歳の新進気鋭の頃に彫った、「ピエタ」と、今回の晩年(84-88歳)で彫っていった「ロンダニーニのピエタ」を比較するのは酷な感じを否めないものの、芸術家としての天性の才能の発揮と、人間としての幸福の追求というものを、改めて考えさせられた。

 2018年9月に、上野「国立西洋美術館」にて「ロンダニーニのピエタ」鑑賞。

写真: 「ロンダニーニのピエタ」(1559-64年 未完成作品) 

   (ミケランジェロ84-88歳製作 スフォルツェスコ城専用美術館蔵)

「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2018.9.22>より転載。同視聴者センターより許諾済。

美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

本ブログは、「美の巨人たち」(テレビ東京 毎週土曜 22:00〜22:30) 放映番組で取り上げられた作品から、視聴後に私の感想コメントを綴り、ここに掲載しているものです。 (2020年4月放映より、番組タイトル名は「新・美の巨人たち」に変更)   ブログ管理者 京都芸術大学 芸術教養学科 2018年卒 学芸員課程 2020年修了 瀬田 敏幸 (せた としゆき)

0コメント

  • 1000 / 1000