建築家が童心にかえり、愛と感動を届けた美しい小学校 -八幡浜市立日土小学校- (松村 政恒 設計 1956〜58年竣工)
(「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2018.4.28>解説より引用)
「なんの変哲もない学校です・・」
設計に携わった松村正恒(1913-1993)は答えた。
とんでもない。
この小学校には、通う子どもたちの気持ちを汲み取りながら、様々なアイデアと工夫と設計者と施行に携わった、地元の方々の「子どもたちへの愛」が散りばめられている。
松村は語った。「私は学校をつくるとき、まず子どもになったつもりで、プランを考え始めるのです」と。
学校の主役は、子どもである。このあたりまえの発想が、これまで作られてきた全国の学校の設計に、どれほど反映されてきたのか。
今回紹介されたのは、「愛媛県八幡浜市立日土小学校」の校舎である。
1956(昭和31)年に中校舎竣工。その2年後に東校舎も竣工した。
この校舎の特徴をあげてみると、
➀校舎の正面にどこでもあるはずの玄関がない。玄関という大人優先の発想から離れる意図がそこにはあると。
②通常16~20センチの階段差が、子ども目線の12センチ以下にしている。
③景観にマッチした若草色と淡い桜色の色彩で彩られた、校舎全体への優しい塗装と印象。
④すべての柱は、子どもの安全に配慮し、柱の角がすべて「面取り」されている。
⑤黒板は、子どもたちがどこから見ても見やすいように、内側に湾曲されている。
⑥子どもたちの心情を考え、相談室(補導室)を校舎内で最も豪華部屋にあつらえている。
⑦校舎の裏を流れる木喜川に沿い、川面に面して、テラスやベランダが配置されている。
などなど・・・
校舎内のすべてに、「子どもたちのための建物」としての工夫が、一貫して組み込まれている。
番組では、最後にこのように結んでいる。
「野の花のように咲く 手作りの学校 子どもたちの王国・・」
(番組を視聴しての私の感想綴り)
この校舎は、いまも現役で使用されていると伺い、そのこと自体、素晴らしいことであると感動した。
TPOという諸条件が整ったがために、「子どもたちのユートピア校舎」が現実のものとなったとはいえ、設計した松村正恒の子どもたちに注ぐ強い情熱と愛情があったことは、間違いない。
都会育ちの私にとっては、すべては感動の連続である。また、普通であれば、関係者からの様々な抵抗や反対に遭遇して、設計の理想は、途中であきらめ放棄してしまうことだろう。
松村は語った「山深く 人知れず咲く 名はないけれど 清楚な花一輪 立ち去りがたい そんな建物をつくれたら・・・」そして、彼はその立ち去りがたい建物を、今から60年も前に現実のものとした。2012年、この校舎は国の重要文化財として指定された。
「同様の学校をこれからも建てよう」といっても、なかなか難しいだろう。
ただ、22世紀を生きる未来の宝としての子どもたちへ、その「志」と「愛」は、しっかりと継承していく大切な価値が詰まっているものではないかと考えた。
写真: 「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2018.4.28>より転載。同視聴者センターより許諾済。
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