人・ART・世界のBorderlessな未来体験がここに(体験型 Digital Art Museum 2018年開館 制作: team Lab Inc)
(「新・美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2021.8.28> 主な解説より引用)
2018年に東京・お台場のパレットタウン内に「世界最大級の体験できるデジタルアートミュージアム」が開館した。このミュージアムには館内マップも順路もない。また、同じ部屋でも時間によって違う作品となる。
「境界のない世界」美術館の常識を超えた特別の体験ができるこの場所を制作したのは、team Lab(チーム ラボ)。構成員およそ700人のこの組織は、エンジニア、建築家、CGアニメーター、プログラマー、数学者など、様々な分野のスペシャリストで構成されている。およそ60にも及ぶデジタルアート作品は、520台のコンピューターと500台のプロジェクターにより、センサーが複合的に反応し絶えず作動していて、チームラボスタッフの一人工藤 岳さんによると、「2度と同じ作品は造れない。スタッフにも作品の動きのコントロールができない」という。
コロナ前の2019年、「単一アートグループとして、1年間で最も来館者数が多い美術館」として、ギネス世界記録にも認定された。
あのLADY GAGAや、WILL SMITHといつた世界的な音楽アーティストたちも、見学に見えたという。
team Labを率いるのは、猪子寿之(いのこ としゆき 44歳)氏 2001年東京大学工学部を卒業。インターネットが世の中に出はじめた頃、「デジタル領域が本当に凄そうだ。テクノロジーで生活できないか」と、友人4人で会社を創業し、当初は企業のウェブ制作などを生活のベースにしていた。
その傍らで挑戦していたのがデジタルアートであった。しかしながら、当時の日本では、まだコンピューターで創作したものを「アート作品」とは認めてもらえず、誰からも注目されないまま10年という年月が過ぎた。
ある時、世界的に活躍している村上 隆(むらかみ たかし)氏がオフィスを訪ね、デジタルアート作品に触れ、「これは世界で発表した方がいい」と勧められ、team Lab として初めての個展「チームラボ<生きる>展 Kaikai Kiki Gallery Taipei」を、台北で開催した。さらに3年後の2014年 現代アートの本場ニューヨークで個展開催にこぎつけた。
その頃、斬新なアート表現を求めていた海外の多くの美術館から、デジタルアートが一躍注目を集めるようになった。海外で注目されたもう一つの理由は、日本の伝統美術が息づくデジタルアート表現であった。
アート・トラベラーのシシド・カフカさんは、荒波を動画表現により描いた「Black Waves」作品を観て語った。「最初のインパクトは、自然の強さを感じて脅威に写った。それでもよく観ているうちに葛飾北斎の<神奈川沖浪裏 1830年作>で描かれていた波の表現と似ていて、波の描き方がとても日本画っぽいですね」と。
横浜美術大学学長で世界的な現代アートコレクターの一人、宮津大輔氏は、番組でこうコメントした。
「絵画なり写真っていうのは、みんな遠近法で描かれている。一点透視図法に見られるように、西洋では一つの消失点に収束するように描かれる<遠近法>が、<正しい風景とか物事の捉え方>であると捉えられていた。
一方、近代以前の伝統的な日本絵画では、例えば<国宝 洛中洛外図屏風 狩野永徳/作 1565年 上杉博物館蔵> などは、ドローンで俯瞰したかのように描かれている。まるで絵の中に入り込んでいるような感じを抱く。 また、葛飾北斎の<神奈川沖浪裏 葛飾北斎/ 作 1830年 東京国立博物館蔵>を観ると、大浪を<下から仰ぎ見る視点>、富士山を<真正面から見る視点>、浮かぶ船を<上から俯瞰して観る視点>が、それぞれ混じり合っている。
西洋の遠近法では、外から眺める自然は<見るもの>。一方で、日本の価値観から照らせば、<我々も自然の一部、自然の中に我々もいる>という視点になる。
このことから、team Labの作品はデジタルを使うことによって、日本の伝統的な世界観を360度体感する作品になっている」と。
創業者である猪子氏の故郷 徳島県での体験談も語った。「野山で風景に感動して写真に撮って、その後に現像した写真を観ても何か<違和感>を感じた。その場で撮ったはずなのに、なんでこんなに違うんだ。おまけにその風景には、自分の肉体がないかのように感じた。レンズを通して世界を見るから、<境界>が生まれるんじゃないかと思いはじめた」と。
彼が「境界のない世界」「ボーダレスの世界」を模索しはじめ、そしてたどり着いたのが「デジタル技術」であった。
「リアルな自然と人が一体になる作品」として、チームラボが2021年7月に新たに発表した作品が、1万株以上の本物のランを咲かせての「Floating Flower Garden : 花と我と同根、庭と我と一体」(チームラポプラネッツ 東京豊洲)であった。
観る人に呼応して、天井から吊るされたランが、ゆっくりと上に上がっていく。
最近では、フロリダ州マイアミで現代美術家ジェームズ・タレル氏らとともに、新たな体験型のアートセンターのオープニングを、チームラボの作品が飾った。
猪子氏は番組の最後に語った。
「大はし あたけの夕立 歌川広重/作」に見られるように、広重が雨を線で描いたからこそ、人は雨を見えるものとして捉えはじめた。このように、ARTは、これまで時代とともに<世界の見え方>を変えてきた。ARTは、世界の多様な美しさを気づかせてくれる。<世界が変わるようなこと>が、ほんのちょっとでもできたらいいなと思う」と。
絵画や彫刻がそうであったように、デジタルアートも、常識や固定観念という「心の境界」を取りのぞいてくれるであろう。世界の見方を変えるヒントがここに・・・
(本番組を視聴しての私の感想綴り)
番組を視聴する前から、私は早く「チームラボ」の作品を観てみたいという思いを描いていた。
そのうちに、コロナの世界規模での感染が蔓延し、様々な美術館での鑑賞そのものも、不要不急ということで後回しにされてきた。
もちろん、一人ひとりの生命にもかかわるような状況の中で、医療体制や、感染予防に全力をあげるのは当然であり、大賛成である。
ただ、言いたい。「アートもスポーツも音楽も、人に感動や、<頑張ろう>という気持ちを喚起する。それが制限されるなら、人間の根本にかかわることだ」と。
猪子寿之さん率いる team Labのサイト(ABOUTより)には、こう表現・記述されている。
「テクノロジーとクリエイティブの境界はすでに曖昧になりつつあり、今後この傾向はさらに加速していくでしょう。そんな情報社会において、サイエンス・テクノロジー・デザイン・アートなどの境界を曖昧にしながら、<実験と革新>をテーマにものを創ることによって、もしくは創るプロセスを通して、ものごとのソリューションを提供します」と。
今回のブログを記述するにあたって、まずは実際に足を運んで観てみないことには、何も書けないと思い、数日前に早速お台場にある「チームラボ・ボーダレス デジタルアート美術館」に足を運んだ。
番組での紹介があった部分、そして実際にざっくりとではあるが、館内全体を回って観て、実感した体験談をよりホットなうちにとの想いから、私はこのブログを書いている。様々なことを感じた今回の作品であるが、以下の3点に絞ってまとめてみた。
1点目「境界のない世界」について
絵画もテレビもスマホも、あくまでも「平面的な思考」の枠内に収まるだろう。従来の美術館アートは、平面的な捉え方(特に絵画は額縁の中の世界が全て)がメインにあったと言える。(もちろん彫刻作品やキュービック作品のように立体的な作品も昔から数多くあったが)
デジタルアートミュージアムとして、足を踏み入れた途端に戸惑ったのは、順路がない、案内サインがほぼない、作品そのものも、全てが動体として動き続けており、じっくりと腰を落ち着けて観るという視点そのものから、自己を解放しないとついていけないという「やや感じる不安感」であった。
それでも不思議なもので、状況や環境に慣れてくるとそのうち、楽しくなってくる。
「身体で世界を捉え、そして立体的に考える」とはどのような感覚を自身に与えるのか、あるいは能動的に何かを掴もうととりにいくのか、「空間のコントロール」に加え、「時間のコントロール」が加わる体験であったとすれば、境界を失う不安と同時に得られる同一一体感、特に「自然との一体感」を感じるのはどういうことだろうと。
それでも最近のチームラボ作品には、番組でも紹介されたように「生の植物ランを1万株も用意し展示したことの意味は」「技術やテクノロジーだけの追求・進化では置き忘れ去られる大切な何かを見失うのではないか」という不安が、もしかしたらチームラボ側にもあるのだろうか。
コロナはウイルスではあるが、ふつうは人の目には見えない。ただ、世界中に感染拡大したように、「世界の境界線」もないといえばない。アートも、すべからくというか、デジタルアートの登場とともに、すでに「境界線のない世界」に突入し向かっていると言っていいのだろうか。
国家とか、政治とか、経済とか、明確に「境界線」として依然として維持し続けているものは、厳然と目の前にはある。
ただ、今後は多国籍企業に見られるように、(必要に迫られての多国間連携や協力なしに、環境問題一つ解決できないように)ボーダレスな状況が進むのだろうか。理想と現実の中で、しばらくはもがき続けるのだろうが、さらにその先の世界を想像してみたくなる情動に駆られた。そこでのアートの果たす役割はなんだろうか。
2点目 BLACK WAVESに観る日本絵画の3次元(空間把握体感)アートの可能性
葛飾北斎は、60代辺りから本格的な作品を数々描きはじめている。紹介された「神奈川沖浪裏」のみならず、例えば「諸国瀧廻り」や晩年に描いた「怒濤図」のように、浪、瀧、水にまつわる絵画を意欲的に描いた。
当時はデジタルアートのような技術もなかったために、眼に焼きつけた瞬間を、いわば想像力で補いつつ描いたのだろう。絵画における2次元(平面)でのアートから、3次元でのデシタルアートに少しずつ移行していった場合、例えばVR(バーチャルリアリティ)と同じようなアート体験が可能になるのか。あるいはもう現実の作品として着手され、「芸術作品」として発表されているのかどうか。
最も、芸術作品を誰かがどこかで認定するような時代は、マルセル・デュシャンの「泉」からすでにとっくに過去のものになっているのかもしれない。
それでも、猪子氏のチームラボですら、10年間という「日本や世界からも評価されない時期」を経験してきた。「創造は破壊とともにセットで用意される」とするならば、そうした挑戦的な破壊からでしか、次世代の創造は生まれないのかもしれない。
GAFAの創業者も、全て20代の時期に創業している。これからは、ますます固定観念や常識に捉われ続けていては、大企業ですら危うい時代であることをひしひしと感じる。(だからと言って社会の良識の否定や非常識を推奨しているわけではないのはもちろんであるが)
デジタル作品を扱う場合は、「複製技術とコピー作品」との関係や法的な整合性なども課題としてあるだろう。(音楽の楽曲制作もしかり)
3点目 「EN TEA HOUSE 幻花亭」での「浮遊空間と浮遊感覚の茶体験」
私が、いろいろな日本茶をYOUTUBEで、主に海外向けに紹介するチャンネル「DJ せたっちの日本茶ホッとルーム」を立ち上げてから、約半年がたった。そんなこともあってか、今回の鑑賞機会でとりわけ入場前からワクワクしていたのが、館内の一角にあったデジタル茶屋「EN TEA HOUSE 幻花亭」での茶体験であった。
都内や京都にある「日本茶専門カフェ」に、これまで実際に足を運んだのは、30数カ所にのぼる。ただ、今回のようなデジタルでの演出による「茶体験」は、初めてであった。想像以上に「美のアート茶」とも呼べるような、クリエイティブなお茶体験に感動した。
特に驚いたのは、茶碗を手に取り、一口二口、口にしてからテーブルに茶碗を戻すと、そこからデジタルの花々が、茶碗を飛び出して散りばめられ、やがて壁をつたい上っていくシーンであった。注文したお茶が「ゆず茶」であるのに合わせて、デジタルでの花々も美しい「ゆずの華」であった。
かつての千利休が、庭の花の美しさをお見せするのではなく、庭に咲く一面の花々を刈り取って客人を招いた。そして、「たった一輪の花」だけを、床の間の脇に飾り、客人にその一輪のみをもって、おもてなしし、お見せしたことを想起した。
今回の実際の展示内容を拝見して、私にとって最も印象に残ったというか、一番好きなエリアは、「地形の記憶」。そして、「EN TEA HOUSE 幻花亭」である。
「DJせたっちの日本茶ホッとルーム」
日本茶を主に海外向けにご紹介するYouTubeチャンネルはこちらから
⬇️
https://youtu.be/hsQWACP9vhQ
<参考情報>
展示開催名称 「チームラボ ボーダレス team Lab Borderless」
会期 2022年8月31日まで(あと一年あまり)
チケット 日時指定制(2021年9月現時点)
感染対策として 館内滞在人数を制限 詳しくは公式HPにてご確認を
写真: 「新・美の巨人たち」<テレビ東京2021.8.22放映> より転載。同視聴者
センターより許諾済。
チームラボ ボーダレス BLACK WAVES より (撮影許諾済)
「神奈川沖浪裏」(葛飾北斎/作 1830年 東京国立博物館蔵)
「EN TEA HOUSE 幻花亭」入口サイン (チームラボ ボーダレスより)
一服の茶を点てると茶に花が生まれ咲いていく。花々は茶がある限り無限に咲く。
「EN TEA HOUSE 幻花亭」入口案内 (チームラボ ボーダレスより撮影許諾済)
茶碗の中のお茶の表面に、デジタルの花が浮かび、一服いただくごとに花が茶碗を離れて周りに散っていきます。
「Floating Flower Garden 花と我と同根、庭と我と一体」「チームラボプラネッツ」東京豊洲 (2021年7月)
「大はしあたけの夕立 歌川広重/作 1857年 静岡市東海道広重美術館/蔵 」
チームラボ ボーダレス お台場 公式ウェブサイトより転載
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