アニメの常識を超える先に見えるもの・・「かぐや姫の物語」(高畑勲 監督作品 2013年)

(「新・美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2019.8.3>での主な解説より引用)

 高畑勲監督の遺作となった「かぐや姫の物語」(2013年制作・公開)は、竹取物語を題材にしたアニメ映画である。がしかし、単なる昔物語風のアニメ映画ではない。

 そこには、高畑氏が大胆かつ果敢に挑戦しつづけること、制作期間8年という歳月を費やし、ようやく誕生した作品である点で、画期的であり、革命的ともいえる作品となった。

 それは、大きく2つの点で、彼の挑戦の痕跡が作品からうかがえるからである。

 一つ目には、「セルアニメ」を突き抜けた先に見出した、「手描き線」の採用である。

一枚のシーンを描くのに、「実線動画」、「塗線作画」「模様作画」という3種類もの作画を必要とすることから、作画枚数は24万枚にもなった。

 また、PC上での彩色にあたっては「手描き線」だけでは、線の内側に、同じ色を塗ることすらできないことが生じる。

 このため、ラフな手描き線をあえて用いることで、かぐや姫の「怒り」「悲しみ」「あきらめ」という感情表現を露出してみたいという、高畑氏のとてつもないほどの、「表現へのこだわり」が見てとれるのである。

 二つ目には、写実的な表現の追求でもあった、アニメの背景画に、まさに写真の世界のリアルさから一歩踏み出して、水彩画風のタッチと「余白の美」を追求していったことである。

 制作仲間である、西村義明氏が語るには、「高畑氏のこだわりだとしても、<こだわり>では、言葉が優しすぎる」と。また、40年来のつきあいでもあるプロデューサーの鈴木敏夫氏からは、高畑氏はとことん作品制作に没頭し追求する態度からの教訓として、<公開日を定めない>という、彼に対する究極の解決策を見出したとも語っている。

 宮崎駿氏からも、「とてつもない高畑氏のこだわりは、面倒くさいから嫌だ」とまで、言わせしめた。

(番組を視聴しての私の主な感想コメント)

 アニメ表現で、どこまで人間(というか「かぐや姫」)の感情の表出を、どこまで出していけるのか、とてつもない挑戦を試みたのが、本作品「かぐや姫の物語」である。

 人工的なものから、できるだけ自然の中の人間の存在というか、生き物である人間の姿にもとことんこだわり抜いた作品であると感じた。

 ひとつには、かぐや姫自身が、建物を突き抜けて外へ全力で飛び出していくシーン(下段: 2枚)が象徴的であったように、人間ではない「もののけ」を感じる1シーンでもあった。

 ふたつには、これは番組を視聴した中で、私が特に印象に残った部分である。

それは、「余白の美」の採用であり、こだわりであり、その意味するところの解釈についてである。

 「余白の美」と聞いて、すぐに思い浮かんだのは、円山応挙が、雪のシーンを描いた作品の中で、雪の部分のみを「余白」として描いた絵画「国宝 雪松図屏風」(1786年頃)である。

 またさらに、日本的情感を豊かに表現した、長谷川等伯の「松林図屏風」における「余白」表現のことも、おもい浮かべ想起した。

 本作品の背景画を主に担当した男鹿和男氏も、高畑氏からのオファーにより、アニメ絵画の完成形「セルアニメ」よりも、余白として「抜くことの難しさ」を吐露していた。

 このことから、鑑賞される人の想像力を、ある意味で大事にした高畑氏の先駆性というか、革新的着想には、ただただ驚き、感心するばかりである。

 それでも、やはり日本的心象風景とか、日本人の精神性といった次元から再度見つめ直していると、より高い次元から「アニメの表現」を、とことん追求せんとする、高畑勲氏の「飽くなき熱き心」に遭遇したような印象をもった。

 まだまだ、表現しきれていない世界の一端にしか、我々はたどり着いていないのかと・・

写真 : 「新・美の巨人たち」テレビ東京放映番組より転載。

   同視聴者センターより許諾済。

上段・右      森の背景にあえて「余白」を取り入れた1シーン

上段 ・左    淡色系で表現された「かぐや姫の1シーン」

下段 ・右    かぐや姫が疾走するシーンのひとこま(手描き線の例)

下段 ・左    怒り・悲しみ・あきらめの表情を、手描き線で多彩に表現

美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

本ブログは、「美の巨人たち」(テレビ東京 毎週土曜 22:00〜22:30) 放映番組で取り上げられた作品から、視聴後に私の感想コメントを綴り、ここに掲載しているものです。 (2020年4月放映より、番組タイトル名は「新・美の巨人たち」に変更)   ブログ管理者 京都芸術大学 芸術教養学科 2018年卒 学芸員課程 2020年修了 瀬田 敏幸 (せた としゆき)

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