妖しく・儚く・美しく・・・「炎舞」(速水御舟 作 1925年 山種美術館/蔵)



(「新・美の巨人たち」テレビ東京放映番組放映<2019.7.13>主な解説より引用)

 「炎舞」(えんぶ) 速水御舟(はやみ ぎょしゅう) 1925年作 山種美術館・蔵。同館が所蔵している重要文化財6点のうちのひとつである。

 また、同館は国内外で最大とされる御舟の作品を、120点にわたり有している。6月8日から8月4日まで、同館で前期後期に分けてではあるが、所蔵する御舟の全作品を公開している。

 今回のアート・トラベラーである田中麗奈さんは、この絵の第一印象をつぶやいた「不思議な絵ですね」でも、「優しいだけじゃない・・」と。

 この絵画の作者である、速水御舟(1894-1935)が残した言葉がある。

「梯子の頂上に登る勇気は貴い 更にそこから降りて来て 再び登り返す勇気を持つ者は更に貴い」と。

 深い闇に立ち昇る炎。そして、炎の先には、精緻を極めた9匹の蛾が乱舞している。

さらには、神々しいまでの炎のエネルギーを包み込むように、漆黒の暗闇のバックが、作品全体にわたり、幻想と迫真の世界を醸しだしている。

 山種美術館の館長山﨑妙子さんは語る。「蛾は全部正面を向いて描かれていて、さらに炎を中心に同心円状に描いている。さらに蛾の羽先をぼかすことによって、羽ばたきの音まで、今にもこちらに聞こえてくるようだ」と・・。

 日本画壇の将来を嘱望されていながら、御舟は40歳という若さで、病気で急逝してしまう。

(番組を視聴しての私の感想コメント)

 本番組を私が視聴して、素人ながら3点の素朴な疑問が湧いてきた。

1点目 「炎のデフォルメ」について

 山種美術館の山﨑妙子館長によると、仏画で国宝の「不動明王二童子像」(平安時代 将軍塚青龍殿蔵) で描かれている火㷔光背に見られるような、非常に「様式的な古典の美」をベースに描かれていると語った。それでは、なぜ炎を描くのに、御舟は様式的な古典の美にこだわったのだろうか。

2点目 炎の上に描かれている美しい、しかし実在の「蛾の舞い」である。なぜ「蛾」なのだろうか。軽井沢という地でこの絵が描かれた。とすれば、例えば「蝶」でもよかったのではないか。もちろん番組では、「プシュケー」という古代ギリシャ語が、「魂」や「生命」という意味の他に、チョウや蛾の意味があると解説していた。

 魂や生命の死と再生といったことと、関連があるのか、仏教的な永遠の生命や、生死の流転や輪廻を想像していたのかどうか・・・。「蛾」という生き物に、美の象徴として想いを込めたのはなぜか・・・

3点目 この作品の最も優れている点をひとつあげるとすれば、やはり背景に描かれた「炭と朱色」を繰り返し、途方もない回数を塗り重ねていく作業の果てに、行き着いたであろう、「黒に込めた・秘めた黒色の美」である。ここまで色の発色にとことんこだわっていった点において、単なる焚き火の中の写実を描こうとしたのではない。御舟の日本美に対する「執念のこだわり」を、私は感じとってしまう。

 御舟は、「もう二度と描けない背景の黒色である」と語ったという。であれば、なおさら

この背景の色のこだわりについて、聞いてみたいと強く感じた。

 さて、速水御舟の作品は、これまでにも、「美の巨人たち」放映番組の中で、過去に2作品が取り上げられていたと記憶する。

 ひとつは「洛北修学院村」(滋賀県立近代美術館)であり、もうひとつが、山種美術館所蔵の作品「班猫」であった。

 「洛北修学院村」では、ラピスラズリという群青色へのこだわりから、フェルメール、伊藤若冲まで引用しつつ、御舟も24歳という若さで、この鮮やかな青一面の作品を描いたことが紹介されていた。

 アート・トラベラーの田中麗奈さんが最後に語っていたように、「優しいだけではない」この絵が新しい再生、新しい挑戦のイメージと力強く受け止めるとしたら・・・

 御舟の妖しくて、儚くて、しかし・・・美しい・・・限りある「生」への決意のあらわれなのかもしれない。

写真: 「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2019.7.13>より「炎舞」転載。

同視聴者センターより許諾済。

美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

本ブログは、「美の巨人たち」(テレビ東京 毎週土曜 22:00〜22:30) 放映番組で取り上げられた作品から、視聴後に私の感想コメントを綴り、ここに掲載しているものです。 (2020年4月放映より、番組タイトル名は「新・美の巨人たち」に変更)   ブログ管理者 京都芸術大学 芸術教養学科 2018年卒 学芸員課程 2020年修了 瀬田 敏幸 (せた としゆき)

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