ならず者でいて美の怪物-その光と闇-「バッカス」(1598年頃 カラヴァッジョ作 フィレンツェ・ウフィツィ美術館蔵)


(「美の巨人たち」テレビ東京放映<2019.1.26>主な解説より)

 驚異の超絶的画力と評価され、恐るべき美の怪物とも形容された画家。ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ。圧倒的な写実と徹底したリアリズム。

 「バッカス」は、ローマ神話に登場する「ワインの神」である。それは完璧な調和のとれた身体を持つ、架空の若者として描かれてきた。ここで描かれているのは、手が赤く描かれているように、神話に描かれている神ではない。そのあたりにいそうな若者が、バッカスに変装している姿を描いた。

 表情は物憂げで、疲れているようであり、宴のあとのバッカスである。豊饒の象徴であるはずの果物は、よく見ると腐っている。豊饒ではなく、衰退。狂気のあとの冷静。

 カラヴァジョの生涯 は、かなりな乱暴者で、変わり者、ならず者で有名であった。1606年には、殺人を犯している。ローマから追放され、教皇の恩赦を待ちながら、ナポリ、マルタ、シシリアと流れ、ポルト・エルコレで38歳の若さで死去。不慮の病と野垂れ死にであった。

 作品の「バッカス」は、まるでカラヴァッジョ自身のようでもあり、狂気の後の焦燥、それは破壊への誘いとも観てとれる。「バッカス」は、ギリシャ神話の神様というよりは、我々人間の中に潜む「狂気」であったのか。 無気力な衰退から、破壊へと導いているようにも思える。

 (番組を視聴しての私の感想綴り)

 今回の作品紹介は、正直に言って観ているうちに、殺人を犯したなどと紹介され、かなり憂鬱な気分になった。さすがに、ここで取り上げるのもやめようかと、何度も自問自答した。

 一方、カラヴァッジョは、西洋美術史における最大の変革者の一人とされる。特にモチーフの半分を、強烈な明暗で影に隠す、人物の表現が俊逸とされる。また、ルネサンス以来の美術のさまざまなルール・規範の殻を打ち破り、バロック美術という新時代へ、人々を導いた人物といえると。読みが浅いとすれば、さらに学ばねばとも。

 「冷静さ」と「狂気」を併せ持つのが人間であると、カラヴァッジョは感得していたのか知りたいところである。カラヴァッジョを理解する上で、重要になるキーワードは、「風俗」「五感」「静物」「肖像」「光」「斬首」「聖人」などとされる。

 私には、これらを読み解くことの困難性というか、当惑・困惑という点で、一般の鑑賞者には、戸惑いを隠せない画家ではないか。少なくとも、イタリア人たちは、彼の芸術性を高く評価していることは確かとは思われるのだが・・

 2002年までイタリアで刷られていたリラ紙幣には、表にカラヴァッジョ本人、裏には果物籠が描かれていた。

 一つだけ、素晴らしいと感じたのは、果物表現の見事さと、「法悦のマグダラのマリア」にみられるような、人物の感情表現、表情表現の豊かさである。

 熟れていて新鮮なものから、腐りかけていて食べられない果実までを、超絶リアルに描いてしまう、その天才的な画力には驚き、出たのはため息ばかりである。

 熱病で不慮の死を遂げたとき、彼の荷物には「1枚のマグダラのマリアの絵」が含まれていたと伝えられている。

 気性が激しく、諍(いさか)いが絶えない、波乱に満ちた人生を送ったカラヴァッジョ。

 残酷なシーンを描いた絵画は、さすがに苦手である。カラヴァッジョの超絶なる画力を知る上で、せめて「法悦のマグダラのマリア」と「果物籠」は、本物の絵画に直接対面したいと感じた。

 写真: 「バッカス」(1598年頃 作)「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2019.1.26>より転載。同視聴者センターより許諾済。

1枚目「バッカス」

2枚目「果物籠」

3枚目「聖マタイの召命

「バッカス」( Bacchus カラヴァッジョ作 1598年頃 イタリア・フィレンツェ・ウフィツィ美術館蔵 )

「果物籠」(Basket of Fruit カラヴァッジョ作 1601年頃) 

 イタリア絵画史上最も美しいと謳われた「静物画」2002年までイタリア・リラ紙幣に刷られていた。

「聖マタイの召命」(Martirio di Matteo カラヴァッジョ作 1600年頃 コンタレッリ礼拝堂蔵 )

美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

本ブログは、「美の巨人たち」(テレビ東京 毎週土曜 22:00〜22:30) 放映番組で取り上げられた作品から、視聴後に私の感想コメントを綴り、ここに掲載しているものです。 (2020年4月放映より、番組タイトル名は「新・美の巨人たち」に変更)   ブログ管理者 京都芸術大学 芸術教養学科 2018年卒 学芸員課程 2020年修了 瀬田 敏幸 (せた としゆき)

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